この記事の要点

  • 養蜂に免許や資格は不要だが、養蜂振興法にもとづく蜜蜂飼育届の提出義務がある
  • 届出は毎年1月31日までに、1月1日現在の状況を住所地の都道府県窓口へ出す
  • ニホンミツバチでも1群だけの趣味飼育でも届出の対象になる
  • 県境を越えて蜂群を移動させる転飼は、届出ではなく許可が必要

「巣箱を庭に置いてみたい」と思ったとき、最初につまずくのはたいてい蜂の飼い方ではなく、「これは勝手に始めていいことなのか」という一点ではないでしょうか。免許が要るのか、資格試験があるのか、それとも誰でも自由に飼えるのか。実は答えはそのどれでもありません。養蜂は免許制ではなく、届出制です。

蜂のいない木製の巣箱がひとつ、朝の光が差し込む静かな庭に置かれている情景

養蜂は「免許制」ではなく「届出制」

養蜂を始めるのに国家資格や許可証は必要ありません。ただし、始める前に都道府県へ届け出る義務があります。この違いを最初に押さえておくと、以降の手続きの見通しが立ちやすくなります。

養蜂振興法という昭和30年生まれの法律

蜜蜂の飼育に関するルールの根拠は、養蜂振興法(昭和30年法律第180号)です。農林水産省によれば、この法律は蜜蜂飼育者に都道府県への届出を義務づけると同時に、県域を越える蜂群の移動(転飼)を許可制とし、蜜源植物の保護増殖を努力義務として定めています。あわせて蜜蜂は、果樹やいちごなどの花粉交配の担い手としても位置づけられています。免許を取得するための試験や講習が存在するわけではなく、行政に「これから蜂を飼います」と申告する仕組みだと理解しておくと分かりやすいと思います。

平成25年の改正で「趣味の1群」も対象になった

もともとこの法律は「養ほう振興法」という名称で、業として蜂を飼う人を主な対象としていました。一般社団法人日本養蜂協会の資料によると、平成25年1月1日施行の改正で名称が「養蜂振興法」に改められ、届出義務の対象者が趣味養蜂家にまで拡大されています。背景には、趣味で蜂を飼う人の増加と、それに伴う蜂場をめぐるトラブルの増加があったとされます。同時に罰金及び過料も引き上げられました。つまり、庭先や家庭菜園の片隅で1群だけ蜂を飼うつもりであっても、この法律の外側にはいられないということです。

蜜蜂飼育届とは——誰が・いつ・どこに出すのか

蜜蜂飼育届とは、飼育者の氏名や飼育場所、群数などを都道府県に申告する書類です。京都府の案内では、種類や群数、趣味か業かを問わず、蜜蜂を飼育するすべての人が対象とされています。

毎年1月31日まで、1月1日現在の状況を書く

京都府によれば、届出は毎年1月31日までに、その年の1月1日現在の飼育状況を記載して提出します。一度出せば終わりではなく、年に一度、状況を書き直して提出し直す仕組みだと捉えておくとよいと思います。愛知県の例では、受付期間を1月4日から31日までとしている自治体もあります。

年の途中で始めるときは随時届出

年の途中で新たに飼育を始める場合は、1月を待たずに随時届出を行います。京都府の案内でも、新規飼育の場合は随時届出と明記されています。「今年はもう1月が過ぎてしまったから来年まで待つ」というものではなく、始めた時点で速やかに届け出るのが原則です。

届出用紙に書くのは4つ——氏名住所・場所・群数・年間計画

愛知県の案内によると、届出用紙に記載する主な項目は、飼育者の氏名・住所、飼育場所、飼育群数、年間飼育計画の4つです。特別な専門知識がなくても記入できる内容ですが、飼育場所や群数の変化はそのつど正確に反映させる必要があります。

届出が要らない例外は、2つだけ

朝の庭で一輪の花にとまる一匹の蜜蜂、小さな群れでも届出の対象になることを示す情景 1群だけの趣味飼育でも、届出の対象になる

届出が不要になるケースは、ごく限られています。「小規模だから」「ニホンミツバチだから」という理由では例外になりません。

ニホンミツバチでも、1群でも、届出は必要

静岡県の案内によれば、届出不要の例外は、花粉交配用に必要な群数を一時的に飼育する場合と、研究室など密閉構造の飼育管理設備で飼育する場合の2つに限られています。逆に言えば、それ以外の飼育形態はすべて届出の対象です。京都府の案内でも西洋・日本の蜜蜂の種類を問わず対象とされており、ニホンミツバチとセイヨウミツバチの違いにかかわらず、庭先に1群置くだけでも届出は必要になります。

「届出=許可」ではない——配置調整が入ることもある

京都府は、届出は飼育の許可を意味するものではなく、蜂群配置の調整が必要になる場合があると案内しています。届出を出したからといって、どこにでも自由に巣箱を置けるわけではないという点は、始める前に知っておきたいところです。

なぜ蜂に届出がいるのか——法律の背景にある3つの理由

アカシアの花と菜の花畑を描いた淡彩画、減りゆく蜜源植物を象徴する情景 レンゲ畑は昭和45年頃の約11%まで減っている

届出制度は、単なる行政手続きではなく、防疫・近隣トラブルの防止・蜜源の保全という3つの目的を持った仕組みだとされています。

理由1: 腐蛆病——蜂の伝染病を追跡するため

腐蛆病とは、蜜蜂の幼虫がかかる伝染病で、愛知県の案内では家畜伝染病に指定されており、発生時は直ちに家畜保健衛生所へ連絡することとされています。どこに、どれだけの蜂群があるかを行政が把握していなければ、伝染病発生時の追跡や封じ込めは難しくなります。届出は、この防疫体制の土台になっているといえます。

理由2: 蜂場が重ならないように——趣味養蜂の増加とトラブル

日本養蜂協会の資料は、養蜂振興法の改正の背景に趣味養蜂の増加と蜂場をめぐるトラブルの増加があったと説明しています。近い場所に複数の蜂群が置かれれば、蜜源の奪い合いだけでなく、近隣住民との軋轢も生まれやすくなります。届出によって都道府県が飼育場所を把握することは、こうした配置の調整を可能にする前提でもあります。

理由3: 減っていく蜜源——レンゲ畑は昭和45年頃の約11%に

蜜源植物の代表格であるレンゲについて、日本養蜂協会は栽培面積が昭和45年頃と比べ約11%にまで激減していると紹介しています。あわせて、蜜蜂の飼育戸数は昭和60年の9,499戸から平成17年には4,790戸へと半減し、近年は増加傾向にあるとされます。国産はちみつの生産量は約2.8千トンで、国内自給率は7%程度とも紹介されています。限られた蜜源を多くの蜂群で分け合う状況だからこそ、どこにどれだけの蜂がいるかを行政が把握する意味があると言えそうです。

引っ越しする蜂——「転飼」という許可の仕組み

蜂群を飼育地から別の場所へ移動させることを転飼といいます。これは届出ではなく、許可が必要な手続きです。

花を追いかけて移動する養蜂がある

養蜂の中には、レンゲやそば、りんごなど蜜源となる花の開花に合わせて蜂群を移動させる形態があります。農林水産省の資料でも、県域を越える蜂群の移動は転飼として許可制であることが定められています。届出だけで完結する定置養蜂と違い、県外への移動には別の手続きが挟まる点が特徴です。

県外は2ヶ月前、県内は1ヶ月前——申請時期の例

愛知県の案内では、転飼は県外への移動なら2ヶ月前、県内での移動なら1ヶ月前に申請するとされています。これはあくまで愛知県の例であり、申請時期や必要書類は都道府県によって異なる可能性があります。転飼を検討する場合は、飼育地・移動先双方の窓口への確認が欠かせません。

出して終わりではない——変更届と、出さなかった場合

蜜蜂飼育届は毎年更新するだけでなく、状況が変わったときにも別の届出が必要になります。

変更届が必要になる3つの場面

千葉県の案内によれば、飼育計画の変更、年の途中での飼育開始、住所・氏名・連絡先の変更があった際には、飼育変更届を提出することとされています。飼育群数を増やした、引っ越しをした、といった変化があれば、そのつど窓口に報告する必要があるということです。

届出をしないと罰則の規定もある

養蜂振興法には罰則の規定があり、日本養蜂協会の資料では、平成25年の改正で罰金及び過料が引き上げられたと紹介されています。具体的な金額については一次資料での確認が必要ですが、届出が単なる努力目標ではなく、法的な義務として位置づけられている点は押さえておきたいところです。不安な場合は、まず住所地の窓口に相談するのが確実だと思います。

京都で始めるなら——窓口と、六角門がいま調べていること

京都で蜂を飼おうと考えたとき、実際にどこへ届出を出すのかは住んでいる場所によって変わります。

京都府の提出先は住所地で変わる

京都府の案内によると、届出の提出先は住所地の市役所・町村役場、または広域振興局農林商工部です。京都市・向日市・長岡京市・大山崎町に住んでいる場合は、京都府農林水産部畜産課畜産振興係が窓口となります。同じ府内でも住所によって窓口が異なるため、事前に確認しておくと手続きがスムーズです。

蜂を迎える前に、書類から始まる養蜂

六角門は、京都で養蜂を軸にした健康ブランドの準備を進めています。まだ巣箱も蜂も迎えていない段階ですが、六角門が準備を進めている養蜂の中で、こうした届出制度や窓口の仕組みも一つひとつ確かめているところです。蜂を迎えるより先に、まず書類から始まる。そうした地味な手続きの積み重ねも、これから丁寧に記録していきたいと思っています。

よくある質問

Q:ニホンミツバチを趣味で1群だけ飼う場合も届出は必要ですか? 必要です。京都府の案内では西洋・日本の蜜蜂の種類を問わず、また趣味か業かを問わず届出の対象とされています。届出が不要になるのは、静岡県の案内にある花粉交配用の一時飼育と、密閉構造の飼育管理設備での飼育という2つの狭い例外に限られます。

Q:蜜蜂飼育届はいつまでに、どこへ出せばいいですか? 毎年1月31日までに、1月1日現在の飼育状況を記載して提出します。年の途中で新たに飼育を始める場合は随時届出です。提出先は住所地の都道府県窓口で、京都府の場合は住所地の市役所・町村役場や広域振興局農林商工部、一部地域は府畜産課畜産振興係となります。お住まいの都道府県ごとに窓口が異なるため、詳細は各自治体に確認することをおすすめします。

Q:届出を出せば、どこでも自由に蜂を飼えますか? そうとは限りません。京都府は、届出は飼育の許可ではなく、蜂群配置の調整が必要になる場合があると案内しています。近隣への配慮についても、届出とは別に検討しておく必要があります。

Q:届出をしないとどうなりますか? 養蜂振興法には罰則の規定があり、日本養蜂協会の資料によれば平成25年の改正で罰金及び過料が引き上げられています。具体的な内容は一次資料での確認が必要ですが、まずは住所地の窓口に相談することをおすすめします。

六角門は、京都で養蜂を軸にした健康ブランドの立ち上げを準備しています。「治す」ではなく「ととのえる」という考え方のもと、蜂を迎える前の今は、こうした制度や仕組みを一つずつ調べ、確かめている段階です。届出という地味な一歩から、養蜂という営みを丁寧に見つめていきたいと考えています。