台所の奥から出てきたはちみつの瓶。賞味期限の表示はとうに過ぎているのに、中身は透き通ったままで匂いも変わらない——そんな瓶を前に「これは大丈夫なのだろうか」と首をかしげた経験がある人は少なくないはずです。
この記事の要点
- はちみつが腐りにくいのは、糖度約8割・水分活性0.5〜0.8・pH3.2〜4.9という3条件が微生物の増殖を妨げるためです。
- 賞味期限切れのはちみつも、未開封であれば全国はちみつ公正取引協議会は安全性に問題はないとしています。
- 加糖はちみつや精製はちみつは水分量や糖度の規格が異なるため、純粋はちみつと同じ保存性は期待できません。

はちみつが「腐らない」と言われる理由
腐敗とは微生物が増殖して食品を変質させる現象であり、はちみつはその増殖条件を満たしにくいために「腐らない」と言われます。
微生物が増えるために必要な条件
腐敗を起こす細菌やカビは、増殖のために水分・栄養・適した酸性度などいくつかの条件を必要とします。特に水分は重要で、微生物は自由に使える水がある程度なければ細胞の働きを維持し、増えていくことができません。
はちみつがその条件を満たさない理由
はちみつは糖分の割合が非常に高く、微生物が自由に使える水分が少ない食品です。全国はちみつ公正取引協議会によれば、はちみつは糖度約8割、水分活性値0.5〜0.8、pH3.2〜4.9前後の弱酸性という性質を持ち、この3つが重なることで微生物が増殖しにくい環境になっているとされています。腐らないと言われる背景には、こうした具体的な数値の裏付けがあります。
糖度・水分活性・酸性度——保存性を支える3つの数値
はちみつの保存性は、糖度・水分活性(aw)・pHという3つの数値によって説明できます。
糖度約8割という水分の少なさ
全国はちみつ公正取引協議会の説明によると、はちみつの糖度はおよそ8割に達します。糖分が非常に高い一方で水分の割合は小さく抑えられており、この糖と水のバランスが微生物の増殖を抑える土台になっています。蜜源となる花の種類によって風味や色合いは変わりますが、単花蜜と百花蜜の表示の違いにかかわらず、糖度や水分の傾向自体は大きくは変わらないとされています。
水分活性(aw)0.5〜0.8とは何か
水分活性(aw)とは、食品中の水分のうち微生物が実際に利用できる自由水の割合を示す指標で、純水を1として数値が低いほど微生物が使える水が少ないことを表します。全国はちみつ公正取引協議会によれば、はちみつの水分活性値は0.5〜0.8とされ、一般的な細菌やカビが増殖しにくいとされる範囲に収まっています。糖分が水分子を抱え込み、微生物が使える自由水を減らしていることが背景にあります。
pH3.2〜4.9の弱酸性の役割
はちみつがpH3.2〜4.9前後の弱酸性を示すことも、全国はちみつ公正取引協議会の説明で示されています。多くの腐敗菌は中性に近いpHを好むため、弱酸性の環境はその増殖に不利に働くとされています。この酸性度には、ブドウ糖が変化する過程で生じるグルコン酸などの有機酸が関わっているといわれ、糖度・水分活性・酸性度という3つの数値が重なり合うことで、はちみつ特有の保存性が生まれています。
はちみつに賞味期限がある理由——「腐る」と「風味が変わる」は別の話
賞味期限が設定されているのは腐敗を心配してというより、風味や色合いが徐々に変化していくためです。
賞味期限と消費期限の違い
消費者庁は、賞味期限を「おいしく食べられる期限」を示すものとして比較的傷みにくい食品に表示し、消費期限を「安全に食べられる期限」を示すものとして傷みやすい食品に表示すると説明しています。期限は製造者が科学的・合理的な根拠に基づいて設定するものとされています。はちみつに表示されているのは賞味期限であり、この時点で法的にも「傷みにくい食品」として扱われていることになります。
賞味期限切れのはちみつは食べられるか
全国はちみつ公正取引協議会は、未開封であれば賞味期限を過ぎても安全性に問題はないとしています。ただし時間の経過とともに、メイラード反応が進むことがあります。メイラード反応とは、糖とアミノ酸が反応して褐色の物質を生み出す反応で、これによって色が濃くなったり風味が変わったりすることがあります。また、白く固まる結晶化も品質の劣化ではなく自然な変化で、白く固まったときの正しい戻し方を知っておくと、風味の変化と混同せずに扱いやすくなります。
腐ることもある——純粋はちみつと加糖・精製はちみつの違い
見た目は似ていても、規格や成分は同じではない
はちみつなら何でも同じように腐りにくいわけではなく、加糖はちみつや精製はちみつは条件が異なります。
加糖はちみつ・精製はちみつは条件が変わる
日本養蜂協会は、国産天然はちみつを巣箱から採蜜し濾過しただけで人工を加えないものと定義し、水分22%以下、果糖とブドウ糖の合計60g/100g以上、ショ糖5g/100g以下といった規格値を示しています。これに対して加糖はちみつや精製はちみつは、この規格が想定する純粋はちみつとは条件が異なる食品です。糖分の構成や水分量が変われば、微生物が増殖しにくい環境も同じようには保たれません。加糖はちみつが腐ることがあると言われるのは、こうした規格の違いによるところが大きいと考えられます。
スプーンの使い回しなど水分・異物混入のリスク
純粋はちみつであっても、瓶の口や中身に水分や異物が入り込めば、局所的に微生物が増殖しやすい環境ができてしまう可能性があります。濡れたスプーンを繰り返し使ったり、パンくずなどが混じったまま保管したりすることは、はちみつ本来の保存性を損なう要因になり得ます。
正しい保存方法と、食べるときに気をつけたいこと
保存場所にも、家族への配慮を
はちみつは常温・冷暗所での保存が基本で、1歳未満の乳児には与えないという注意も欠かせません。
常温・冷暗所での保存が基本
はちみつは直射日光や高温多湿を避けた常温の冷暗所で保存するのが基本です。冷蔵庫での保存は必須ではなく、むしろ低温によって結晶化が進みやすくなることがあります。開封後は蓋をしっかり閉め、清潔なスプーンを使うことが、水分や異物の混入を防ぐことにつながります。
1歳未満の乳児には与えない
消費者庁は、1歳未満の乳児がはちみつを摂取すると、腸管内でボツリヌス菌が増殖して毒素を産生する乳児ボツリヌス症を発症するおそれがあるとして注意を呼びかけています。はちみつを扱うすべての商品に「1歳未満の乳児には与えないでください」という表示が求められているのはこのためです。1歳未満の乳児にはちみつを与えてはいけない理由は、保存性とは別の観点からの注意点として、あわせて知っておきたいところです。
よくある質問
Q:はちみつは冷蔵庫で保存してもいいですか?
基本は常温・冷暗所での保存です。冷蔵庫に入れてもすぐに品質に問題が出るわけではありませんが、低温は結晶化を早める可能性があります。
Q:賞味期限が切れたはちみつは食べられますか?
全国はちみつ公正取引協議会は、未開封であれば賞味期限切れでも安全性に問題はないという見解を示しています。ただし時間の経過で風味や色合いが変わることはあり得るため、開封して確認したうえで判断すると良いでしょう。
Q:加糖はちみつも腐らないのですか?
純粋はちみつと同じ保存性は期待できません。加糖はちみつや精製はちみつは、日本養蜂協会が示す国産天然はちみつの規格とは水分量や糖分の構成が異なるためです。表示を確認し、賞味期限の目安に沿って早めに使い切るのが安心です。
六角門は現在、京都で蜜蜂を迎える準備を進めている段階です。まだ巣箱もはちみつもありませんが、はちみつという食品がなぜ長く保存できるのかを調べることは、これから養蜂と向き合っていくうえで欠かせない基礎だと考えています。これからも公的な情報をもとに、はちみつと暮らしの関係を少しずつ整理していきたいと思います。