この記事の要点

  • 単花蜜と百花蜜は優劣ではなく、作られ方と土地の個性の違いである
  • 花名を表示できるのは、全て又は大部分をその花から採り、採蜜国名も表示した場合に限られる
  • アカシアはちみつのような単花蜜は、開花に合わせて巣箱を運ぶ「転飼」という養蜂技術によって作られる

同じ棚に並ぶ「アカシアはちみつ」と「百花はちみつ」。値段も色も味も違うのに、どちらも同じ「はちみつ」と表示されていることに、疑問を持ったことはないでしょうか。片方は特定の花の名前を名乗り、もう片方は「百」という漠然とした数字を掲げている。この違いは、はちみつの質の優劣ではなく、作られ方そのものが異なることに由来します。

朝の光の中、色合いも表示も異なる蜂蜜の瓶が木棚に静かに並ぶ淡彩イラスト

「単花蜜」「百花蜜」とは何か——まず定義から

単花蜜とは、特定の花から、その花の特徴を有する形で採れたはちみつを指す表示です。百花蜜とは、多様な花を蜜源とするはちみつを指す言葉で、実は単花蜜を含めたはちみつ全般に使える表示だとされています。全国はちみつ公正取引協議会は、この二つの言葉の関係をそのように説明しています。

単花蜜は「一種類の花だけ」という意味ではない

「単花蜜」と聞くと、その花の蜜だけを100%集めたものだと思われがちですが、そうではありません。ミツバチは巣箱の周囲にある花を訪れるため、意図せず他の花の蜜も混じります。単花蜜として扱われるのは、特定の花の蜜が全体の大部分を占め、その花らしい色・香り・風味を備えている場合です。純度100%を保証する言葉ではなく、特徴が前面に出ているかどうかを示す表示だと理解しておくと、ラベルの見方が変わってきます。

「百花蜜」の「百」は具体的な数を指さない

一方の「百花蜜」の「百」は、100種類の花という具体的な数を意味する語ではありません。全国はちみつ公正取引協議会によれば、これは多様な花を蜜源としていることを示す言葉であり、単花蜜も含めた、はちみつ全般に使える表示だとされています。つまり百花蜜は、単花蜜の対義語というより、より広い意味を持つ言葉が、慣用的に「花名を持たないはちみつ」を指す場面で使われている、というのが実情に近いようです。

なぜアカシアはちみつは「単花蜜」と名乗れるのか——表示のルール

花の名前を商品名に掲げるには、根拠となる基準があります。全国はちみつ公正取引協議会が定める「はちみつ類の表示に関する公正競争規約」がその根拠です。

「全て又は大部分」という基準の意味

同規約第4条は、採蜜源の花名を表示する場合、当該はちみつの全て又は大部分をその花から採蜜し、かつその花の特徴を有するものであることを条件としています。「アカシアはちみつ」という商品名は、養蜂家の主観的な判断で名乗れるものではなく、この基準を満たしていることが前提になっているわけです。逆に言えば、花名が書かれていない、あるいは「百花蜜」「みつばちのはちみつ」といった表示になっている商品は、この基準を満たすほど特定の花に偏っていない、ということでもあります。

採蜜国名の表示が義務であること

同じ第4条では、花名表示に加えて採蜜国名の表示も義務付けられています。海外で採れたアカシアの単花蜜であれば、その採れた国の名前が併記されているはずです。原材料の産地がどこかを確認したいとき、まずここを見る習慣をつけておくと、商品選びの手がかりになります。

単花蜜はどうやって作られるのか——転飼という仕組み

初夏の丘の斜面に並ぶ木製巣箱と、一面に咲くアカシアの白い花房を描いた淡彩イラスト 転飼——花の開花に合わせて巣箱を運ぶ養蜂の知恵

単花蜜は、偶然その花ばかりが咲いていた結果としてできるものではなく、養蜂の技術によって意図的に作られています。その中心にあるのが転飼という仕組みです。

花の開花に合わせて巣箱を運ぶ

転飼とは、特定の花が開花する時期・地域に合わせて巣箱を移動させる養蜂の方法です。ある花が群生する場所に巣箱を運び、その花の開花期間だけミツバチに集めさせることで、他の花の影響を抑え、特定の花の特徴が前面に出たはちみつを得られます。単花蜜のラベルの裏側には、こうした季節と土地を読みながら巣箱を動かすという、養蜂家の判断と手間があります。ちなみに、こうした飼育管理の対象となるミツバチにはニホンミツバチとセイヨウミツバチの違いも関わっており、単花蜜の生産には主にセイヨウミツバチが用いられているのが一般的だとされています。

百花蜜はなぜ「自然に」できるのか

対して百花蜜は、巣箱を移動させず、その土地に自生する多様な花からミツバチが自由に蜜を集めた結果としてできるはちみつです。転飼のように特定の花を狙わないため、その年・その土地の花の咲き方によって味や色合いが変わりやすく、二つとして同じものがないとも言えます。単花蜜が技術によって「作る」ものだとすれば、百花蜜はその土地の環境がそのまま映り込む、いわば「できる」ものに近いと言えるかもしれません。

味と個性を分けるもの——蜜源植物という視点

アカシアの花と菜の花畑を並べて描いた淡彩イラスト、蜜源による個性の違いを示す 蜜源植物が変われば、はちみつの個性も変わる

単花蜜の顔ぶれの豊かさは、日本にある蜜源植物の多様さに支えられています。

日本で確認されている蜜源植物は600種以上

一般社団法人日本養蜂協会によると、日本では600種類以上の植物へのミツバチの訪花が確認されています。これほど多くの選択肢があるからこそ、地域ごとに異なる単花蜜が生まれる土壌が整っているとも言えます。

レンゲ・アカシア・トチノキ——代表的な単花蜜

同協会が代表的な蜜源植物として挙げているのが、レンゲ(ゲンゲ)、ニセアカシア(ハリエンジュ)、トチノキです。店頭でよく見かける「アカシアはちみつ」は、正式には「ニセアカシア」または「ハリエンジュ」という植物の花からできています。レンゲやトチノキも、それぞれ異なる時期に開花し、異なる地域に群生するため、単花蜜として流通する際にはその土地の名前が添えられることもあります。

蜜源植物正式名称分類上の位置づけ
アカシアはちみつの蜜源ニセアカシア(ハリエンジュ)マメ科
レンゲはちみつの蜜源レンゲ(ゲンゲ)マメ科
トチノキはちみつの蜜源トチノキムクロジ科

見分け方——ラベルのどこを見ればいいか

単花蜜か百花蜜かを見分けるのに、特別な知識は必要ありません。ラベルの決まった場所を見る習慣があれば十分です。

商品名に花の名前があるかを見る

まず商品名や商品ラベルに「アカシア」「れんげ」といった花名表示があるかを確認します。花名がある場合、それは公正競争規約の基準を満たした単花蜜だということになります。花名がなく「はちみつ」「百花蜜」とだけ書かれている商品は、多様な花を蜜源とするものだと考えられます。

採蜜国名の表示を確認する

花名表示には採蜜国名の併記が義務付けられているため、ラベルのどこかに「中国産」「アルゼンチン産」「国産」といった記載があるはずです。原材料の産地を知りたいときは、この表示を確認します。

固まりやすさもヒントになる

はちみつは種類によって結晶化のしやすさが異なることが知られています。これは糖の組成の違いによるもので、品質の良し悪しを示すものではありません。とはいえ、購入した単花蜜が季節によって固まったり溶けたりする様子は、その花ごとの個性を感じる手がかりの一つになります。

どちらが「良い」というわけではない

単花蜜と百花蜜のどちらが優れているかを定めた基準は、公正競争規約の中に存在しません。両者は品質の序列ではなく、作られ方と味わいの方向性が異なる、それぞれの個性だと捉えるのが実情に近いようです。

安定した味を楽しむか、季節と土地の個性を楽しむか

単花蜜は、転飼という技術によって特定の花の特徴を安定して味わえるのが特徴です。一方の百花蜜は、その年・その土地の花の咲き方をそのまま映すため、同じ商品でも時期によって表情が変わることがあります。どちらを選ぶかは、安定した個性を求めるか、季節ごとの変化を楽しみたいかという、好みの問題に近いと言えるでしょう。

よくある質問

Q:百花蜜は単花蜜より品質が劣るのですか? 公正競争規約の中に、単花蜜と百花蜜の優劣を定めた基準はありません。両者は品質の上下ではなく、花名表示の基準を満たすかどうかという、作られ方の違いによって区別されています。どちらが良いというより、個性が異なると捉えるのが実情に近いようです。

Q:国産のアカシアはちみつは存在しますか? 転飼という、開花に合わせて巣箱を移動させる養蜂の仕組みにより、国内でも単花蜜の生産は行われているとされています。花名表示には採蜜国名の併記が義務付けられているため、国産かどうかを確認したい場合は、ラベルの採蜜国名の表示を見るのが確実です。

Q:1歳未満の子どもにはちみつを与えてもいいですか? 消費者庁は、ボツリヌス菌の芽胞に汚染されたはちみつを乳児が摂取すると、腸内で増殖して毒素を産生する恐れがあるとして、生後1歳未満の乳児にはちみつを与えないよう注意を呼びかけています。これは単花蜜・百花蜜を問わず、はちみつ全般に共通する注意事項です。

六角門は、京都で養蜂を軸にした健康ブランドの準備を進めています。まだ蜜蜂を迎える前の段階ですが、単花蜜や百花蜜といったはちみつの表示ルールや生産の仕組みを一つずつ調べることも、その準備の一部だと考えています。これからも、はちみつと養蜂について知ったことを、この読みもので少しずつ紹介していきたいと思っています。