この記事の要点

  • 蜜源植物とは、ミツバチが蜜を集める花を持つ植物の総称で、はちみつの味と香りはこの花でほぼ決まります。
  • 一般社団法人日本養蜂協会によれば、レンゲの栽培面積は昭和45年頃と比べ約11パーセントまで減っています。
  • 国産はちみつの自給率は7パーセント程度とされ、大半を輸入に頼っているのが現状です。
  • レンゲが減った背景には、緑肥需要の変化・外来害虫の食害・土地開発など複数の要因が重なっています。

春の水田脇に広がるレンゲ畑の上を数匹の蜜蜂が飛び交う、静かな朝の情景を描いたイラスト

蜜源植物とは——ミツバチの一年をつくる「花の地図」

はちみつ売り場で「レンゲ」「アカシア」と花の名前が並んでいるのを見て、なぜ同じはちみつなのに味も名前も違うのか、疑問に思ったことがあるかもしれません。答えは単純で、蜜蜂がどの花から蜜を集めたかで、はちみつの味も香りも決まるからです。

蜜源植物とは、ミツバチが蜜を集める花を咲かせる植物の総称です。株式会社カクイチが日本養蜂協会のデータをもとに紹介している分類によれば、蜜源植物にはレンゲ(ゲンゲ)・クローバー・ナタネのような草本、ニセアカシアやサクラのような樹木、ミカンやリンゴのような果樹まで幅広く含まれます。養蜂家は季節ごとにどの花が咲くかを見ながら巣箱を移動させたり、その土地に置いたままにしたりして、蜜源の移り変わりに合わせて一年の仕事を組み立てています。実際に日本で蜜蜂を飼うには、養蜂振興法に基づく養蜂を始めるときの蜜蜂飼育届の提出が必要で、飼育場所とその周辺の蜜源を把握することが計画の出発点になります。

蜜源植物と花粉源植物のちがい

植物によっては、蜜よりも花粉を多く供給するものもあり、これは花粉源植物と呼び分けられます。花粉はミツバチの幼虫を育てるためのたんぱく源で、蜜は成虫のエネルギー源です。同じ花が蜜源にも花粉源にもなる場合が多いのですが、蜜の量が少なく花粉が主体の植物は、はちみつの原料としてはあまり語られません。

単花蜜と百花蜜——なぜ名前に花がつくのか

一種類の花からの蜜が中心のはちみつを単花蜜と呼びます。「レンゲ蜂蜜」「アカシア蜂蜜」という商品名は、この単花蜜の呼び方です。一方、複数の花から集めた蜜が混ざり合ったものは百花蜜と呼ばれ、季節や土地ごとの個性が出やすいとされています。同じ養蜂場でも、時期によって単花蜜になったり百花蜜になったりするのは、その時々に周囲でどの花が優勢に咲いているかによります。

なぜレンゲは「はちみつの王様」と呼ばれるのか

アカシアの花と菜の花畑を並べて描いた、蜜源による違いを思わせる淡彩イラスト 花の違いが、味わいと結晶化のしやすさを分ける

レンゲ蜂蜜は、俗に「はちみつの王様」と呼ばれることがあります。理由として語られるのは、くせの少ない上品な甘さと、透明感のある淡い色合いです。

まろやかで癖の少ない味わい

レンゲ蜂蜜は、香りが強すぎず、後味にえぐみが残りにくいと評されることが多いはちみつです。そのため紅茶や料理に合わせやすく、はちみつそのものを味わう食べ方にも向いていると言われます。もっとも、味の感じ方には個人差があり、産地や採蜜時期によっても風味は変わります。

結晶化のしやすさで見るレンゲとアカシア

レンゲ蜂蜜とアカシア蜂蜜は、しばしば対比して語られる組み合わせです。一般に、レンゲ蜂蜜は温度が下がると結晶化しやすく、白っぽく固まった状態で店頭に並ぶこともあります。対してアカシア蜂蜜は結晶化しにくく、常温でも液状を保ちやすいとされています。結晶化は品質の劣化ではなく、含まれる糖の構成比によって起こる自然な現象です。仕組みについては、はちみつが白く固まる結晶化のしくみで詳しく取り上げています。

比較項目レンゲ蜂蜜アカシア蜂蜜
味わいの傾向まろやかで癖が少ない軽やかで香りが穏やか
淡い非常に淡く透明感がある
結晶化のしやすさしやすいしにくい

日本の蜜源はどれだけ減ったのか——数字で見る

結論から言うと、日本の主要な蜜源植物の栽培面積は、この半世紀余りで大きく減っています。国産のレンゲ蜂蜜が「幻」と呼ばれるのは、誇張ではなく統計に裏づけられた事実です。

昭和45年比でレンゲは約11パーセント

一般社団法人日本養蜂協会によると、昭和45年頃と比べて主要な蜜源植物の栽培面積は、レンゲが約11パーセント、ナタネが約5パーセントにまで減少しています。裏を返せば、当時レンゲ畑だった場所のおよそ9割が、今は別の土地利用に変わっているということです。国内で飼育されている蜜蜂の多くはセイヨウミツバチで、在来のニホンミツバチとは飼育のされ方や採蜜量が異なります。このあたりの違いは、国産はちみつの自給率と在来種・外来種のちがいで扱っています。

国産はちみつの自給率は7パーセント程度

同協会の資料では、蜂蜜の国内流通量は約41千トンで、そのうち国産は約2.8千トンにとどまり、自給率は7パーセント程度とされています。スーパーで見かけるはちみつの多くが輸入品なのは、この国内生産量の少なさが背景にあります。レンゲ蜂蜜のように国産・単花蜜という条件が重なる商品は、そもそも流通量が少なく、価格が上がりやすい構造になっています。

なぜ減ったのか——五つの理由

水田の片隅にまばらに咲き残るレンゲの花と、背景に広がる住宅地を描いたイラスト かつての畑の面影に、わずかに咲き残るレンゲ

レンゲをはじめとする蜜源植物の減少は、一つの原因では説明できません。一般社団法人日本養蜂協会は、農山村での土地開発、ナタネなど主要蜜源作物の栽培激減、外来昆虫による食害、果樹の品種改良、針葉樹林の増加という複数の要因を挙げています。

化学肥料でレンゲの緑肥が要らなくなった

レンゲはもともと、根に共生する根粒菌によって土に窒素分を与える性質から、水田の裏作として広く栽培されてきました。花を咲かせたレンゲをそのまま田に鋤き込む緑肥として使うことで、化学肥料を使わずに土を肥やせたためです。戦後、化学肥料が普及して手軽に使えるようになると、緑肥としてレンゲを育てる必然性は薄れていきました。日本養蜂協会がナタネなど主要蜜源作物の栽培激減を要因の一つに挙げているのも、この農業のあり方の変化と重なります。

外来害虫アルファルファタコゾウムシの食害

アルファルファタコゾウムシとは、マメ科植物を食い荒らす外来昆虫です。レンゲもマメ科の植物であるため、この害虫の被害を大きく受けました。日本養蜂協会は、アルファルファタコゾウムシによるレンゲの食害を、栽培面積が減った要因の一つとして明示しています。

開発・品種改良・針葉樹林・鹿害という複合要因

このほか、農山村での土地開発によって畑や休耕地そのものが減ったこと、蜜や花粉の少ない品種に改良された果樹が増えたこと、蜜源に乏しい針葉樹林が拡大したことも、日本養蜂協会が挙げる要因です。あわせて、シカによる下草の食害で林床の植物相が変わることも、蜜源を細らせる一因として指摘されることがあります。単一の犯人を探すより、農業・林業・生態系の変化が同時に進んだ結果と捉えたほうが、実態に近いと言えます。

「幻のはちみつ」と呼ばれる前に——蜜源を取り戻す動き

蜜源の減少は一方通行の話ではありません。栽培面積を取り戻そうとする動きも、統計と並んで存在します。

耕作放棄地とレンゲ、緑肥を兼ねる取り組み

田にレンゲを植えると、緑肥としての効果と蜜源としての効果を同時に得られます。日本養蜂協会は、ナタネ・レンゲ・ヘアリーベッチの種子配布を実施しており、使われなくなった耕作放棄地を蜜源として活用する取り組みが各地で進められています。同協会の目安では、蜂群1つあたりイチゴやナスでおよそ5〜10アールの蜜源面積が必要とされ、蜜源を確保すること自体が養蜂を続けるための条件になっています。

蜂群30万群を目指す国の計画

農林水産省は、蜜源植物の植栽面積が減少傾向にあるとの認識を示した上で、蜜源植物の植栽面積拡大などを通じて、蜂群数を令和元年の約21.5万群から令和11年に30万群へ増やす目標を掲げています。国が数値目標を立てていること自体が、蜜源の減少が業界内だけの話ではなく、政策課題として扱われていることを示しています。

台所の視点——レンゲはちみつの選び方と楽しみ方

レンゲ蜂蜜を選ぶときに手がかりになるのは、ラベルに書かれた産地と蜜源の表示です。

産地と蜜源表示をどう読むか

「国産」「〇〇県産」といった産地表示と、「レンゲ」「百花蜜」といった蜜源の表示は、別々の情報として読む必要があります。国産のレンゲ蜂蜜は、ここまで見てきた通り栽培面積そのものが少ないため、流通量が限られ、価格も上がりやすい傾向にあります。輸入のレンゲ蜂蜜や、レンゲを主体としながら他の花も混じる百花蜜は、比較的手に入りやすい選択肢です。どちらが優れているという話ではなく、産地と蜜源をあわせて読むことで、自分が何を選んでいるのかがはっきりします。

1歳未満には与えない——大切な注意

はちみつの食べ方に触れるときに欠かせない注意があります。消費者庁は、1歳未満の乳児にはちみつを与えると乳児ボツリヌス症を起こすおそれがあるとして、加熱の有無にかかわらず、1歳を過ぎるまで与えないよう周知しています。レンゲ蜂蜜も例外ではなく、離乳食や飲み物に加える際は子どもの年齢を必ず確認してください。

よくある質問

Q:蜜源植物とは何ですか。花粉源植物とは違うのですか 蜜源植物とは、ミツバチが蜜を集める花を咲かせる植物の総称です。花粉を主に供給する植物は花粉源植物と呼び分けられ、蜜は主に成虫のエネルギー源に、花粉は幼虫を育てるたんぱく源として使われます。

Q:レンゲはちみつはなぜ高く、少なくなったのですか 戦後、化学肥料の普及によって緑肥としてレンゲを育てる必要性が薄れたことに加え、外来昆虫アルファルファタコゾウムシによる食害や土地開発が重なり、日本養蜂協会によればレンゲの栽培面積は昭和45年頃と比べ約11パーセントにまで減っています。栽培面積そのものが減ったことが、希少性と価格の背景にあります。

Q:レンゲとアカシアのはちみつは何が違いますか レンゲ蜂蜜はまろやかで癖の少ない味わいが特徴とされ、温度が下がると結晶化しやすい性質があります。アカシア蜂蜜は香りが穏やかで、結晶化しにくく常温でも液状を保ちやすいとされています。

Q:国産はちみつの自給率はどのくらいですか 一般社団法人日本養蜂協会の資料では、国内流通量約41千トンに対し国産は約2.8千トンで、自給率は7パーセント程度とされています。国内の蜜源が限られていることが、輸入依存の背景にあります。

六角門は、京都で養蜂を軸にした準備を進めています。まだ蜜蜂を迎える前の段階で、巣箱も採蜜も、これからのことです。今回調べたような蜜源植物をめぐる統計や背景は、これから場所や環境を考えていく上でも、手がかりにしたいと考えています。