朝、カーテンを開けるのがつらい日がある一方で、少し外の空気を吸っただけで頭がすっと軽くなる日もあります。この違いを「気分の問題」で片づける前に、体内時計という仕組みの話をしておきたいと思います。
この記事の要点
- 体内時計は約25時間周期で動いており、放っておくと毎日少しずつ後ろにずれていきます。
- 最も強力な同調因子は光で、脳の視交叉上核が朝の光を合図に時計を調整しています。
- 厚生労働省の睡眠ガイド2023は「日中にできるだけ朝日を浴びる」ことを基本方針としており、分数を断定していません。

なぜ「朝の光」なのか——体内時計は放っておくと毎日ずれていく
体内時計は、何もしなければ毎日少しずつずれていく性質を持っています。農林水産省は、体内時計が約25時間の周期で睡眠や体温、血圧、ホルモン分泌などのリズムを刻んでおり、1日24時間とのズレは朝日を浴び朝食をとることでリセットされ、生活リズムが整うと説明しています。
体内時計は脳のどこにあるのか
体内時計とは、脳の中に実際に存在する仕組みのことです。厚生労働省のe-ヘルスネットによると、体内時計は脳内の視床下部にある視交叉上核という場所にあります。目の奥、脳の底に近い小さな領域で、ここが日々のリズムの司令塔になっているとされています。
1日は24時間、でも体内時計は少し長い
厄介なのは、体内時計の周期が24時間ぴったりではないという点です。前述のとおり農林水産省は約25時間としており、この約1時間のズレを毎日どこかで調整しないと、生活リズムは少しずつ後ろ倒しになっていきます。夜更かしが習慣化しやすいのは、このズレを戻す機会が足りていないからだとも考えられます。
光が体内時計を合わせる仕組み——視交叉上核からメラトニンまで
体内時計を朝ごとに合わせ直しているのは、主に光の刺激です。e-ヘルスネットは、体内時計にとって最も強力な同調因子は光であり、朝に光を多めに浴びることで遅れがちな体内時計を日々調整していると述べています。
網膜から脳へ伝わる光の合図
光の情報は、目の網膜から視神経を通じて視交叉上核へと伝わります。同調因子とは、体内時計を外の時間に合わせるための手がかりのことで、光はそのなかでも中心的な役割を担っているとされています。朝、目に入る光そのものが、時計を巻き戻す合図になっているわけです。
セロトニンとメラトニン、一日の役割分担
朝の光の情報によって体内時計がリセットされると、その信号を受けて睡眠を促すホルモンであるメラトニンの分泌が抑制されると、厚生労働省の資料は説明しています。メラトニンは光によって分泌が調整される性質を持つホルモンです。日中は活動的なホルモンであるセロトニンが働き、夜になるとメラトニンへと役割が移っていく、という理解が一般的に知られています。朝に光を浴びることが、この一日の切り替わりの起点になっていると考えられています。
朝、何をすればいいのか——公的な睡眠ガイドが勧めていること
朝の光を浴びることが、一日の始まりの合図になる
具体的に何をすればいいのかという問いに対して、厚生労働省は2014年の睡眠指針を見直し、2023年に「健康づくりのための睡眠ガイド2023」を公表しました。生活指導の実施者や政策立案者向けに睡眠に関する推奨事項をまとめたもので、朝は日中にできるだけ朝日を浴びることが基本方針として示されています。
「日中にできるだけ朝日を浴びる」の中身
ここで注意したいのは、睡眠ガイド2023が「何分浴びればよいか」という具体的な分数までは断定していないという点です。商業的な情報では「20分」「30分」といった数字が独り歩きしがちですが、公的な資料が示しているのは「日中にできるだけ」という方針そのものです。無理に時間を測るより、日中に光を浴びる機会を意識的に増やすという発想の方が、実際の生活には合っていると思われます。
曇りの日、雨の日はどうするか
曇りや雨の日でも、屋外の光は屋内の照明よりずっと強いとされています。天気が悪いからといって光を浴びる意味がなくなるわけではなく、可能な範囲で外の光がある場所に身を置くこと自体に意味があると考えられます。ただし体感としての効果には個人差があり、断定できることばかりではありません。
朝食が体内時計を後押しする理由
体内時計を整えるうえで、光と並んで語られるのが朝食です。農林水産省は、光と朝食の両方が体内時計のリセットに関わり、生活リズムを整えると説明しています。
光と食事、ふたつの同調因子
同調因子は光だけではありません。前述のとおり農林水産省は、朝日を浴びることと朝食をとることの両方を、体内時計のリセットにつながる行動として挙げています。光で脳の時計を動かし、食事で体の各所にある時計を動かす、という二段構えのイメージに近いと考えられます。
起きてから食べるまでの時間と朝食欠食の関係
農林水産省の調査によれば、20〜39歳の若い世代の朝食欠食率は令和元年度で25.8%、男性に限ると31.5%にのぼります。同じ調査では、起床から外出までの時間が1時間未満の人ほど、朝食を「ほとんど食べない」と回答した割合が高い傾向も見られました。朝の時間の余裕のなさが、光を浴びる機会と朝食の両方を後回しにしてしまう構造があるのかもしれません。
忙しい朝でもできる、小さな工夫
小さな一歩でも、光を浴びる機会は生まれる
理想的な過ごし方を並べても、実際の忙しい朝には当てはまらないことが多いものです。ここでは、できる範囲での工夫を挙げておきます。
カーテンを開ける、玄関先に出るだけでいい理由
光が体内時計にとって最も強力な同調因子である以上、特別なことをしなくても、カーテンを開ける、ゴミを出しに玄関先まで出るといった動作だけで、光を浴びる機会は生まれます。長時間屋外にいることよりも、日中の生活の中に光を浴びる場面を増やすことの方が、続けやすい工夫だと考えられます。季節の変わり目に暮らしをととのえる「土用」の過ごし方でも触れているように、季節や天候に逆らわず、できる範囲で暮らしを整えるという発想が土台になります。
夜の光との付き合い方
メラトニンが光によって分泌を調整される性質を持つ以上、夜に強い光を浴びることが体内時計に何らかの影響を与えうる、という仕組み自体は説明できます。ただし、スマートフォンの光が具体的にどの程度の影響を及ぼすかについて、断定的なことは言えません。就寝前の照明を少し落とすといった程度の工夫にとどめておくのが無理のないところだと思われます。
よくある誤解と、気をつけたいこと
光と体内時計の関係は、しばしば実際以上に単純化されて語られがちです。
「浴びればすぐ眠くなる」わけではない
朝に光を浴びることは体内時計を合わせる合図にはなりますが、それがそのまま「よく眠れるようになる」という結果を保証するものではありません。体内時計が整うことと、個々人の睡眠の質や体調の変化との間には、まだ説明しきれない部分が多く残っています。そう感じる人がいるとしても、それは個人の実感であって、一律に当てはまる効果として語るべきではないと考えます。
体調や環境による個人差
光への感受性や生活リズムへの影響の出方には、年齢や体調、住環境によって差があります。持病があったり、睡眠に関して気になる症状が続いていたりする場合は、生活習慣の工夫だけで対処しようとせず、医療機関に相談することが基本になります。この記事で紹介している内容は、あくまで一般的な生活習慣としての工夫にとどまるものです。
よくある質問
Q:朝日は何分くらい浴びればいいですか? 厚生労働省の睡眠ガイド2023は、具体的な分数までは示しておらず、「日中にできるだけ朝日を浴びる」ことを基本方針としています。何分と厳密に測るよりも、カーテンを開ける、外に出る機会を増やすといった、無理なく続けられる工夫を積み重ねる方が現実的だと考えられます。
Q:曇りや雨の日でも効果はありますか? 屋外の光は、曇りや雨の日であっても屋内の照明よりずっと強いとされています。天候が悪いからといって光を浴びる意味がなくなるわけではありませんが、体感としての効果には個人差があり、断定できるものではありません。
Q:夜のスマホの光は体内時計に影響しますか? メラトニンは光によって分泌が調整される性質を持つホルモンであるため、夜に強い光を浴びることが仕組みとして何らかの影響を及ぼしうるとは説明できます。ただし、その影響の大きさを断定的に語れるだけの材料はなく、就寝前の照明を控えめにする程度の工夫にとどめておくのが無理のないところです。
六角門は、京都で養蜂を軸にした健康ブランドの立ち上げを準備しています。まだ蜜蜂を迎える前の段階ですが、「治す」ではなく「ととのえる」という考え方のもと、暮らしの土台になる習慣について、公的な資料をもとにひとつずつ調べているところです。六角門についてにも、この準備の経緯を記しています。