この記事の要点
- 土用は夏だけでなく、国立天文台の定義では年4回ある季節の変わり目の名前です
- 「う」のつく梅干し・うどん・瓜や土用しじみなど、うなぎ以外の食習慣も各地に残っています
- 昔ながらの「休め」という言い伝えは、厚生労働省の睡眠・入浴の情報に照らすと理にかなった知恵として読み解けます
スーパーの店先に「土用の丑の日」の幟が立つと、多くの人がこれをうなぎの日だと思います。けれども土用は、夏だけの言葉ではありません。一年のうちに四回めぐってくる、季節の変わり目を指す名前です。うなぎの幟の奥にある暦の仕組みと、うなぎ以外にも受け継がれてきた食習慣、そして昔の人が「この時期は休め」と伝えてきた理由を、順を追って読み解いていきます。

土用とはなにか——年に4回ある「季節の変わり目」の名前
土用とは、二十四節気を補う雑節のひとつで、一年に四回訪れる期間のことです。夏の土用だけが有名なため見落とされがちですが、暦の上ではもともと四立(立春・立夏・立秋・立冬)それぞれの直前に設けられた節目です。
立秋前の約18日間——太陽の位置で決まっている
国立天文台 暦計算室によれば、土用の入りは太陽黄経27度・117度・297度で定義され、それぞれ約18日間続きます。夏の土用の入りは黄経117度にあたり、立秋の前の約18日間がこれにあたります。つまり夏の土用は、暦の上では「もうすぐ秋が来る」という合図でもあるのです。残る三回はそれぞれ立夏・立冬・立春の直前に位置づけられています。
「土用の丑の日」は暦のかけ算でできている
農林水産省の解説によれば、土用とは四立の直前約18日間を指し、この期間のうち十二支の丑にあたる日が「土用の丑の日」です。土用という約18日間の枠と、日にちを十二支で数える古い数え方が重なってできた呼び名で、年によっては丑の日が二回訪れることもあります。うなぎの日という印象が強い言葉ですが、実際には暦の区切りと十二支という、まったく別のふたつの仕組みのかけ算から生まれた名前です。
なぜ土用は「休め」と言われてきたのか——土いじりの禁忌と間日
土用の期間には、土を動かす作業や新しいことを始めるのを控えるという言い伝えが古くから伝わっています。これは科学的な事実ではなく、季節の変わり目における暮らしの知恵として読むのが妥当です。
土を動かさない、新しいことを始めない——伝承の中身
土用の間は土の中に土公神(どこうじん)という神様が宿るとされ、この時期に土を掘り起こしたり、基礎工事や引っ越しなど新しいことを始めたりするのは避けたほうがよい、という言い伝えがあります。ただし「間日(まび)」と呼ばれる例外の日には、土いじりをしても差し支えないとされてきました。
迷信と切り捨てる前に——季節の変わり目に無理をしない工夫だったという見方
こうした禁忌をそのまま現代の事実として受け取る必要はありません。けれども、暑さが最も厳しくなる時期に「大きな作業や新しい物事を始めない」という取り決めを設けたこと自体は、体調を崩しやすい季節の変わり目に無理をしないための、生活の知恵だったと見ることもできます。予定を詰め込まず、体調に合わせて動きを調整する——土用の禁忌は、そうした昔の人の判断を今に伝える形だったのかもしれません。
土用の食習慣——うなぎだけではなかった「う」のつく食べ物
土用の丑の日にうなぎを食べる習慣は江戸時代に広まったとされますが、この時期の食習慣はうなぎだけにとどまりません。「う」のつく食べ物や、地域ごとの行事食が各地に残っています。
丑の日に「う」のつくものを——梅干し・うどん・瓜
丑の日には「う」から始まる食べ物を食べると夏負けしないという言い伝えがあり、梅干し・うどん・瓜(うり)などがその代表とされてきました。うなぎの「う」も、この語呂合わせの延長線上にあると考えると、うなぎ以外の選択肢が見えてきます。
うなぎの栄養は「成分」として見る——ビタミンA・B群など
土用の丑の日にうなぎを食べる習慣は、江戸時代の学者・平賀源内が発案したという説が広く知られています。真偽のはっきりした史実というより、広く語り継がれてきた逸話として紹介されることが多いものです。農林水産省によれば、うなぎにはビタミンA・B1・B2・E・Dのほか、カルシウム、鉄分、亜鉛、DHA・EPAなどが含まれるとされています。こうした成分を含む食品だという事実と、「食べれば夏バテしない」という効果を結びつけるかどうかは別の話として、分けて捉えておきたいところです。
土用しじみ・土用餅・土用卵——地域に残る夏の行事食
うなぎ以外にも、しじみの旬にあたることから「土用しじみ」、あんころ餅を食べる「土用餅」、鶏卵や地域によっては消化のよい卵料理を食べる「土用卵」など、各地に残る行事食があります。いずれも共通しているのは、暑さで食が細くなりがちなこの時期に、消化しやすく食べやすいものを選んできたという生活の知恵です。
土用の知恵を現代語訳する——休み方と眠り方
土用の言い伝えの核心は「休め」という一点にあります。これを現代の暮らしに翻訳するなら、厚生労働省が公開する睡眠・入浴の情報が手がかりになります。
40度の湯に10〜15分——深部体温と眠りの関係
厚生労働省 e-ヘルスネットの解説によれば、40度の湯船に10〜15分ほど浸かると深部体温が約0.8〜1.0度上がり、その後の体温の下がり方が寝つきや深いノンレム睡眠を助けるとされています。入浴のタイミングは就寝の1〜2時間前がもっとも効果的だと説明されています。夏は冷房でシャワーだけになりがちですが、土用の時期こそ、湯船に浸かる時間を見直す機会かもしれません。
予定を詰めない18日間、という考え方
土用の約18日間を「新しいことは控える期間」ととらえるなら、現代においては予定を詰め込みすぎない期間として読み替えることができます。大きな決断や無理なスケジュールを避け、深部体温を意識した入浴と睡眠のリズムを整える。それだけでも、暑さの厳しい約18日間の過ごし方は変わってくるはずです。
夏の台所と甘味のこと——はちみつを使うときに知っておきたいこと
夏の食卓で甘味を選ぶとき、はちみつも選択肢のひとつになります。保存のしやすさと、与え方の注意点を押さえておくと安心です。
常温保存でよい理由と、夏に結晶しにくい理由
はちみつは水分が少なく糖度が高いため、微生物が増えにくく、常温での保存に向くとされる食品です。冷蔵庫で冷やす必要はありません。また、はちみつが白く固まるのは結晶化という自然現象で、気温が高い夏場は結晶が進みにくく、さらりとした状態が保たれやすい季節でもあります。
1歳未満の赤ちゃんには与えない——乳児ボツリヌス症のこと
厚生労働省によれば、ボツリヌス菌は土壌中などに広く存在し、その芽胞は120度で4分間加熱しても死滅しません。腸内環境がまだ整っていない1歳未満の乳児がはちみつを口にすると、腸の中で菌が増えて毒素を出す乳児ボツリヌス症を起こすおそれがあるため、1歳未満の赤ちゃんにははちみつを与えないよう注意が呼びかけられています。夏の飲み物や離乳食の甘味として使う際は、この点を必ず確認してください。
よくある質問
Q:土用は夏だけですか?年に何回ありますか? 国立天文台の定義では、土用は年に4回あります。立春・立夏・立秋・立冬それぞれの直前、約18日間がすべて土用にあたり、夏の土用はそのうちのひとつです。丑の日の風習が広く知られているため、夏だけの言葉だと誤解されがちです。
Q:土用の丑の日にうなぎ以外なら何を食べればいいですか? 「う」のつく梅干し・うどん・瓜のほか、土用しじみ・土用餅・土用卵といった行事食が各地に伝わっています。いずれも夏バテ防止の効果が証明されたものではなく、暑さで食が細くなる時期に食べやすいものを選んできた、昔ながらの言い習わしとして紹介されています。
Q:土用干しとは何ですか? 梅雨が明けて晴天が続く時期に、梅干しの梅や衣類・書物などを日に干す習わしを土用干しと呼びます。梅干し作りにおいては、塩漬けした梅を三日三晩ほど天日に干して仕上げる工程を指すことが多く、カビや虫害を防ぐための生活の知恵として続けられてきました。
六角門は、京都で養蜂を軸にした健康ブランドとして、まだ蜜蜂を迎える前の準備を進めています。夏は蜜蜂にとっても厳しい季節で、夏の働き蜂の寿命は約一か月とされます。暑さの中で短い生を全うする蜂たちと同じように、人もまた季節の変わり目に無理をせず過ごす工夫が必要なのかもしれません。これから蜂を迎える準備を進めながら、こうした季節の知恵についても調べを重ねていきたいと考えています。