この記事の要点

  • 働き蜂の寿命は約1か月とされ、前半は巣の中の仕事、後半は外での採餌にあたります。
  • 羽化からの日数(日齢)に沿って掃除、育児、造巣・貯蜜、門番、外勤へと仕事が移り変わります。
  • 日齢と仕事の対応は固定ではなく、群れの事情で外勤開始が5日以上前後することが報告されています。
  • 老化は暦の日数より、外に飛んだ量に連動して進むと考えられています。

巣箱の入り口で佇む門番蜂と、外へ飛び立とうとする蜂が並ぶ静かな朝の情景

働き蜂の一生は、およそ一か月しかない

花のそばで羽音を立てている蜂を見て、この蜂はあと何日生きるのだろうと考えたことがある人は少なくないと思います。答えは、およそ一か月です。長いようで、人の暮らしの感覚からするとずいぶん短い一生です。

約1か月という数字はどこから来ているか

一般社団法人日本養蜂協会は、働き蜂の寿命を約1か月としています。ここで主に扱う働き蜂は、日本で飼育される代表的な蜂であるセイヨウミツバチ(Apis mellifera)です。日本に古くから分布するニホンミツバチとセイヨウミツバチは何が違うのかという点も、気になる方は合わせて読んでみてください。同協会によれば、働き蜂の体重は約100mgで、一度に運ぶ蜜は40mg前後、飛翔速度は秒速6〜8mとされています。

内勤期と外勤期という二つの季節

日本養蜂協会の説明では、約1か月の一生は大きく二つに分かれます。前半の2〜3週間は巣の中で働く内勤期、後半の1〜2週間が巣の外で花を訪れる外勤期です。この二つの期間の切り替わりこそ、働き蜂の一生を理解するうえでの軸になります。

日齢で仕事が変わる——掃除、育児、造巣、貯蜜、門番、そして外へ

巣板の上で幼虫の世話や巣づくりにあたる数匹の働き蜂を描いた情景 掃除、育児、造巣——巣の中にも仕事の順番がある

働き蜂は羽化した瞬間から一律に同じ仕事をするわけではなく、日齢に応じて仕事の中身が変わっていきます。米国の研究誌Behavioral Ecology and Sociobiologyに掲載されたSiegelらの研究は、この移り変わりを段階的に確認しています。

最初の仕事は自分が出てきた部屋の掃除

Siegelらの報告では、若い日齢の蜂は巣房の掃除と幼虫への給餌を担うとされています。自分が羽化してきた巣房を整え、次の世代のための場所をつくる仕事から一生が始まるということになります。

幼虫を育てる育児蜂の時期

巣房の掃除に続く時期には、育児蜂として幼虫の世話にあたる期間が来ます。群れの将来を担う幼虫の面倒を見る、いわば内勤の中でも中心的な仕事です。

蝋を出して巣をつくり、蜜を熟成させる

Siegelらの研究では、中間齢の蜂は貯蜜の処理や造巣、そして門番を担うとされています。蝋を分泌して巣房を新たにつくったり、運び込まれた蜜を熟成させて貯蔵したりする仕事が、この時期にあたります。

巣門に立つ門番という最後の内勤

同じ中間齢の時期に含まれる門番も、内勤の最後を飾る仕事です。巣の出入り口に立ち、群れの一員かどうかを確かめる役目で、この後に控えるのが外勤です。

この日齢表は時刻表ではない

ここまでの日齢の並びは、多くの解説記事が図表にして示すものですが、これはあくまで平均的な傾向であって、時刻表のように正確に進む予定表ではありません。

外勤開始が5日ずれるという報告

Siegelらの研究では、系統によって外勤を開始する日齢に5.3〜5.5日ほどの差が出ることが確認されています。同じ働き蜂であっても、群れの系統や状況次第で外勤に出るタイミングは前後するということです。

育児蜂が足りなければ外勤蜂が巣に戻ることもある

群れの中で育児にあたる蜂が急に足りなくなると、すでに外へ出ていた蜂が巣に戻って幼虫の世話を再開する場合があることも、分業の柔軟性を研究する中で知られています。日齢分業を分子の水準から群れの水準まで研究している玉川大学のミツバチ科学研究センターも、このような行動発達の柔軟性を研究テーマの一つに挙げています。日齢表は目安であって、群れの都合が優先されるということです。

なぜ一か月で終わるのか——老化は日齢より飛んだ量で進む

働き蜂の一生がなぜこれほど短いのかという問いには、暦の日数ではなく、外に飛んだ回数や量が関わっているという見方があります。

採餌開始からおよそ10日で性能が落ちる

米国国立衛生研究所のPMCに収載されたMünchとAmdamの論文は、Visscher & Dukasによる1997年の研究を引き、採餌を始めてからおよそ10日で行動の性能が低下し始めることを紹介しています。

外へ出た日から時計が速く回る

同じ論文は、老化が暦の日齢そのものよりも、飛行という重労働の蓄積量に連動して進むと述べています。内勤期をゆっくり過ごした蜂でも、外勤に出た日を境に、体はそれまでとは違う速さで消耗していくということになります。

冬に生まれた働き蜂だけが、四か月以上生きる

雪の積もった巣箱の入り口で身を寄せ合う数匹の蜜蜂を描いた冬の情景 冬を越す蜂には、また違う時間が流れている

働き蜂の寿命は一律に約1か月というわけではなく、生まれた季節によって大きく変わります。

夏の蜂と冬の蜂は同じ働き蜂なのか

MünchとAmdamの論文は、Winstonによる1987年の研究を引用し、働き蜂の平均寿命は夏で15〜38日、冬では140日にのぼると紹介しています。同じ働き蜂でありながら、生まれた季節によって寿命が4倍以上開くということです。

越冬という仕事のかたち

老化が飛行という仕事量に連動するという先の知見にあわせて考えると、寒い時期に外へ出る機会が少ない冬の蜂が長く生きることには、一定の筋道が見えてきます。冬を越す働き蜂にとっては、巣の中で群れを維持することそのものが、この時期の仕事のかたちなのだと思います。

同じ遺伝子なのに、女王蜂は20倍長く生きる

働き蜂の一か月という短さは、群れの中の別の存在と比べるといっそう際立ちます。

違いは生まれではなく、幼虫のときの食べもの

JT生命誌研究館が紹介するKamakura氏の研究(Nature誌、2011年)によれば、働き蜂と女王蜂はもともと同じ受精卵に由来し、王台でローヤルゼリーを与えられた幼虫だけが女王蜂に育ちます。女王蜂の寿命は働き蜂の約20倍とされ、その鍵となる物質としてロイヤラクチンという蛋白質を鎌倉昌樹氏が同定し、Nature誌に発表しました。ここで言えるのは、あくまで蜜蜂の幼虫の分化を左右する餌としての役割であり、人の健康にあてはめて考えられる話ではありません。日本養蜂協会によれば、女王蜂の寿命は2〜3年で、1日あたり1000個前後の卵を産むとされています。

雄蜂の一生はまた別のかたちをしている

群れには雄蜂と呼ばれる存在もいますが、働き蜂や女王蜂とは寿命の物差しも役割も異なります。その仕組みについては、また別の機会に譲りたいと思います。

一匹の一か月と、群れという時間

一匹の働き蜂の一生は短くても、群れそのものは何年も続いていきます。

一匹が一生で集める蜜は小さじ一杯ほどと言われる

一匹の働き蜂が一生をかけて集める蜜の量は、小さじ一杯ほどとよく言われます。そう考えると、蜂蜜売り場に並ぶ一瓶の背後には、数えきれないほどの一か月が積み重なっていることになります。群れが増えて手狭になると分蜂とは——群れが半分に割れて新しい巣へ出ていく日と呼ばれる出来事も起こります。個体は短命でも、群れという単位で見れば命はつながり続けているということです。

これから確かめたいこと

準備を進めるなかで、庭先や公園で蜂を見かけたときに、内勤の時期なのか外勤の時期なのかを推測できるようになりたいと考えています。花を訪れている蜂は外勤期、つまり一生の後半にいる個体である可能性が高いはずです。これから実際に群れと向き合う機会があれば、日齢表がどこまで当てはまり、どこで崩れるのかを自分の目で確かめてみたいと思っています。

よくある質問

Q:働き蜂の寿命はどのくらいですか。冬と夏で違うのですか 日本養蜂協会は働き蜂の寿命を約1か月としています。一方で、MünchとAmdamの論文が引用するWinstonの研究では、夏は15〜38日、冬は140日にのぼるとされており、季節によって寿命は大きく変わります。

Q:働き蜂はいつから巣の外に出て蜜を集めるようになりますか 日本養蜂協会の区分では、羽化からおよそ2〜3週間の内勤期を経て外勤に移るのが目安です。ただしSiegelらの研究が示すように、系統や群れの事情によって外勤の開始は数日前後することがあります。

Q:働き蜂と女王蜂は同じ卵から生まれるのに、なぜ寿命がこんなに違うのですか JT生命誌研究館が紹介するKamakura氏の研究によれば、両者を分けるのは生まれではなく、幼虫期に王台でローヤルゼリーを与えられたかどうかという食べものの差です。その鍵物質としてロイヤラクチンが同定され、Nature誌に発表されています。

Q:庭で見かける蜜蜂は、一生のどのあたりにいる蜂ですか 花を訪れて蜜や花粉を集めている蜂は、外勤期、つまり一生の後半にいる個体である可能性が高いと考えられます。羽化から2〜3週間を巣の中で過ごしたあとの姿だということです。

六角門は、京都で養蜂を軸にした健康ブランドを準備している段階です。巣箱を迎えるにあたっては養蜂を始めるには届出がいることも含め、必要な手続きや蜜蜂の生態について調べを重ねています。まだ蜂を飼い始めてはいませんが、こうした一匹一匹の一か月を知ることが、これから群れと向き合う準備の一つだと考えています。