この記事の要点

  • ミツバチは冬眠せず、巣箱の中で「蜂球」という塊を作って身を寄せ合い越冬します
  • 蜂球の中心は羽ばたきではなく飛翔筋を震わせる発熱によって約30℃前後に保たれます
  • 対オオスズメバチの「熱殺蜂球」は中心温度46℃前後に達する別の現象で、目的も対象も異なります
  • 越冬で最も危険なのは真冬ではなく、産卵が再開して貯蜜の消費が増える晩冬です

冬になると庭先や道端でミツバチを見かけなくなり、そのまま姿を消してしまったように感じることがあります。しかし多くの場合、彼女たちは死んでしまったわけではなく、巣箱の中でじっと冬をやり過ごしています。そこで起きているのは、眠りではなく、身を寄せ合いながら熱を作り続けるという、地味だが休みのない営みです。

雪の積もった巣箱の入り口で、姿を見せず身を寄せ合う蜜蜂たちの静かな冬の情景

冬、ミツバチはどこに消えたのか

冬に花や庭でミツバチの姿が見えなくなるのは、死滅したからではなく、巣箱の内部にとどまって活動しているためです。気温が下がり花も少なくなる季節、働き蜂たちは外に出て働く理由を失い、巣の中に集まって固まりをつくります。この固まりが「蜂球」と呼ばれるものです。

外から見ると巣箱は静まり返っていますが、内部では気温を保つための小さな運動が絶えず続いています。冬のあいだ巣箱を覗く機会がなければ、この様子はなかなか想像しにくいものです。まずはこの蜂球という仕組みそのものから見ていきます。

蜂球とは何か——おしくらまんじゅうの仕組み

蜂球とは、ミツバチの働き蜂たちが女王蜂を中心に密集して球状にまとまり、集団で暖を取る越冬時の状態のことです。子どもの遊びの「おしくらまんじゅう」に近く、外側の蜂が冷気を遮る壁のような役割を果たし、内側の蜂が発熱源になります。

中心はなぜ30℃前後に保たれるのか

蜂球の中心付近は、外気温が氷点下になっても約30℃前後に保たれるとされています。これは一匹一匹の体温が高いからではなく、多数の働き蜂が密集し、後述する発熱行動を集団で行うことで塊全体の温度が底上げされる結果です。外気が厳しくなるほど蜂たちは密度を高め、球をより小さく固く締めることで熱の逃げ場を減らします。

外側と内側、蜂たちの入れ替わり

蜂球の外側にいる蜂は、いわば断熱材の役目を担う分、内側の蜂より低い温度にさらされ続けます。そのため外側と内側の蜂は固定されているわけではなく、時間の経過とともに入れ替わっていくと考えられています。冷えた外側の蜂が内側に移動して暖を取り、代わりに暖まった内側の蜂が外側へ回る。この循環によって、特定の個体だけが低温にさらされ続ける事態を避けていると見られます。

ミツバチは冬眠しない、という違い

ミツバチは冬眠せず、寒さの中でも活動を保ったまま春を迎えます。一般社団法人日本養蜂協会によれば、ミツバチは冬眠する昆虫ではなく、蜂球を形成して発熱し続けることで冬を耐え抜くとされています。体温を外気温近くまで落として代謝を止める冬眠とは、根本的に違う戦略です。

産卵と育児は一時的に止まる

同協会の解説では、越冬中は女王蜂の産卵と幼虫の育児が停止するとされています。新しい働き蜂を育てるには巣内を高温に保ち続ける必要があり、厳寒期にそのコストを払い続けるのは現実的ではないため、この時期はいったん増殖を止め、既存の個体で冬を乗り切る体制に切り替わると考えられます。

暖かい日には巣の外に出ることもある

冬眠していないということは、条件がそろえば活動を再開できるということでもあります。冬の間でも気温が上がる日には、働き蜂が巣の外に出て排せつのための短い飛行を行うことがあると言われています。真冬でも姿が見えない日ばかりではないのは、こうした理由によるものです。

熱はどこから生まれるのか——羽ばたきではなく震え

蜂球の熱源は、羽を羽ばたかせることではなく、飛翔筋を細かく震わせる行動によって生み出されています。羽ばたきによる送風で暖めているというイメージを持たれがちですが、実際に起きているのは筋肉の収縮運動そのものを熱に変える仕組みです。

飛翔筋を震わせて発熱する

働き蜂は翅を動かすための飛翔筋を、実際に翅を大きく動かすことなく小刻みに震わせることで熱を発生させます。人間が寒さで身震いするのと似た仕組みで、筋肉運動のエネルギーの多くが熱として放出される性質を利用していると考えられます。この震えを蜂球全体の個体が分担して続けることで、塊としての温度が維持されます。

エネルギー源は夏から蓄えた貯蜜

発熱には当然エネルギーが必要で、その源になるのが夏から秋にかけて巣に蓄えてきた貯蜜です。花が少なくなる冬は新たに蜜を集めることができないため、蜂球はそれまでに貯めた蜜を消費しながら発熱を続けることになります。つまり冬の蜂球は、過去の季節の働きの上に成り立っている状態だと言えます。

「蜂球」と「熱殺蜂球」は別物——よくある混同を整理する

巣箱の前で蜂が団子状に集まる熱殺蜂球、越冬の蜂球とは目的も温度も異なる防衛行動 熱殺蜂球は外敵を撃退するための別の行動

蜂球と、対オオスズメバチの防衛行動として知られる「熱殺蜂球」は、名前が似ているため混同されがちですが、目的も温度も異なる別の現象です。

対象も温度も違う

越冬時の蜂球は、寒さから自分たちの群れ全体を守るための行動で、対象は外気そのものです。一方で熱殺蜂球は、巣に侵入したオオスズメバチなどの外敵を取り囲み、熱によって撃退するための行動です。玉川大学大学院の発表によれば、通常時の巣内温度は約34℃に保たれているのに対し、対オオスズメバチの熱殺蜂球では中心温度が46℃以上に達し、その状態が約30分間維持されるとされています。

46℃と30℃、桁の違いが示すもの

越冬時の蜂球が30℃前後を保つ生存のための発熱であるのに対し、熱殺蜂球は46℃という、蜂自身の耐性ぎりぎりの高温を作り出す防衛行動です。東京大学・金沢大学・玉川大学による共同研究(PLoS ONE 7(3): e32902、2012年)では、蜂球の中に包囲されたオオスズメバチが46℃の環境下で60分後に死亡したことが報告されています。同じ「蜂の塊」という見た目でありながら、片方は仲間を寒さから守るための発熱、もう片方は外敵を高温で退けるための発熱であり、温度の桁からもその性質の違いが読み取れます。

冬のあいだ、いちばん危ないのはいつか

越冬中のミツバチの群れにとって、最大のリスクは寒さそのものよりも貯蜜が尽きることによる餓死だとされています。蜂球は発熱を続けている限り群れを維持できますが、その燃料である貯蜜が切れてしまえば発熱そのものが続けられなくなります。

貯蜜が尽きることが越冬失敗の主な原因

日本養蜂協会の解説でも、越冬期間中は蓄えた貯蜜を消費しながら過ごすとされており、その蓄えが不足すれば群れの存続にかかわります。秋までにどれだけの蜜と花粉を蓄えられたかが、そのまま冬を越えられるかどうかに直結する構図です。

春が近いほど消費が増えるという逆説

意外に思われるかもしれませんが、最も危険なのは真冬の底ではなく、春が近づいた晩冬だと考えられます。日本養蜂協会によれば、春が近づくと女王蜂の産卵が再開し、それに伴って蓄えていた蜜と花粉の消費が急激に増えるとされています。育児のために巣内をさらに高温に保つ必要が生じ、消費ペースが上がる一方で、外にはまだ十分な花が戻っていない時期でもあります。真冬を耐え抜いた群れが、出口の見える晩冬でかえって貯蜜を使い果たしてしまう、という時間差のリスクがここにあります。

静かな巣箱の中で起きていること

冬の巣箱は、外から見れば音も動きもない静かな箱です。しかしその内側では、女王蜂を中心に働き蜂たちが身を寄せ合い、震えを止めることなく熱を作り続けています。姿が見えないことは、いなくなったことを意味しません。むしろ、見えないところでもっとも粘り強い時間を過ごしているのが冬の群れだと言えます。この蜂球という仕組みを知ってから冬の巣箱を思い浮かべると、それまでとは少し違う景色に見えてくるのではないでしょうか。なお、こうした冬越しの戦略はニホンミツバチとセイヨウミツバチの違いによっても細部が異なる部分があり、また蜂球を支える働き蜂の一生や、秋までの蜜集めを左右する蜜源植物の状況とも深く関わっています。

よくある質問

Q:蜂球の中に女王蜂はどこにいますか? 女王蜂は蜂球の中心付近に位置しているとされています。働き蜂たちがその周囲を幾重にも取り囲むような構造になっており、最も外敵や寒さの影響を受けにくい位置に女王蜂が保護される形になっていると考えられます。

Q:蜂球と熱殺蜂球は同じものですか? 同じ「蜂の塊」に見えますが、別の現象です。蜂球は寒さから群れ全体を守るための越冬行動で中心温度は約30℃前後、熱殺蜂球はオオスズメバチなどの外敵を撃退するための防衛行動で中心温度は46℃以上に達するとされています。対象も温度も目的も異なります。

Q:ミツバチは冬に巣箱の外に出ることはありますか? ミツバチは冬眠しているわけではないため、冬の間でも気温が上がった日には巣の外に出ることがあると言われています。ずっと巣箱に閉じこもり続けているわけではありません。

Q:ニホンミツバチとセイヨウミツバチで冬越しの仕方は違いますか? どちらも蜂球を形成して身を寄せ合いながら冬を越すという基本戦略は共通しています。ただし群れの規模や行動の細部には違いも見られるとされており、詳しくはニホンミツバチとセイヨウミツバチの違いで扱っています。

六角門は現在、京都でミツバチを迎える準備を進めている段階です。まだ巣箱もなく、蜜を収穫した経験もありません。それでも、こうして蜂たちの生態を一つずつ調べていく過程そのものが、これから群れと向き合ううえでの土台になると考えています。冬の巣箱の中で何が起きているかを知ることも、その準備の一部です。