「みりんを切らしたから、はちみつで代用しよう」——台所でそう考えたことがある人は多いはずです。けれど、砂糖・はちみつ・みりん・甘酒は、甘くなる仕組みそのものが違います。同じ甘味でも、原料から作られる過程がまったく別だからです。

この記事の要点

  • 砂糖は植物から糖を精製したもの、みりんと甘酒は米麹による発酵でできる甘味です
  • はちみつはミツバチの酵素がショ糖を分解した、果糖とブドウ糖主体の天然の転化糖です
  • 本みりんはアルコール度数13.5〜16.5%の酒類、米麹甘酒は1%未満で酒類に該当しません

同じ「甘い」でも、生まれ方がまるで違う——4つを分ける軸

砂糖・はちみつ・みりん・甘酒は、甘味料という一言でくくれるほど単純な仲間ではありません。何から、どういう工程を経て甘くなっているかが、それぞれまったく異なるからです。

原料は植物か、発酵の力か、ミツバチか

砂糖はサトウキビやてん菜という植物から、糖分だけを取り出して精製したものです。みりんと甘酒は、もち米や米に米麹の酵素を働かせ、デンプンを糖に変える発酵によって甘くなります。はちみつだけは植物由来でも発酵由来でもなく、ミツバチが花の蜜を体内で加工してつくる産物です。原料が植物(砂糖)、発酵の力(みりん・甘酒)、ミツバチ(はちみつ)という3系統に分かれると考えると、違いが見通しやすくなります。

「甘味料」とひとくくりにできない理由

みりんの中には少なくないアルコールが含まれ、酒税法上は酒類として扱われるものがあります。一方ではちみつや砂糖にアルコールは存在しません。甘酒も、米麹だけで作られたものと酒粕を使ったものとでアルコールの有無が分かれます。甘さの強さだけでなく、アルコールの有無や量という軸まで含めて見ないと、料理での使い分けを正しく判断できません。

砂糖——サトウキビやてん菜から「ショ糖」だけを取り出す

砂糖とは、サトウキビやてん菜からショ糖を精製して取り出した甘味料です。農林水産省の資料によれば、砂糖は結晶と糖蜜を分離する分蜜糖と、分離せずに糖蜜ごと固めた含蜜糖に大別されます。

分蜜糖と含蜜糖——上白糖・グラニュー糖・三温糖・黒糖の違い

分蜜糖には、日本の家庭でもっとも身近な上白糖、結晶が大きく癖の少ないグラニュー糖、加熱してカラメル分を加えた三温糖、そしてゆっくり結晶を育てた氷砂糖が含まれます。含蜜糖の代表格は黒糖と和三盆です。同じ植物由来でも、糖蜜をどこまで分離するかで種類が分かれていきます。

結晶の細かさと色が示すもの

農林水産省の資料では、上白糖の結晶は0.1〜0.2mm、グラニュー糖は0.2〜0.7mmとされています。結晶が細かいほどしっとりとまとわりつくような甘さになり、粗いほどさらりと溶けて後味が軽くなる傾向があります。黒糖のような含蜜糖は糖蜜を残したままなので色が濃く、ミネラル分やクセのある風味も一緒に残ります。精製度合いの差が、色・粒感・後味の違いとしてそのまま現れているわけです。

みりん——もち米と米麹を「酒」として醸すという発想

本みりんとは、もち米・米麹・焼酎(またはアルコール)を主原料に醸造してつくる酒類調味料です。国税庁の資料によれば、本みりんのアルコール度数は13.5〜16.5%とされています。

本みりんは米麹が生む糖とアルコールの両方をもつ

みりんが持つ甘さは、米麹の酵素がもち米のデンプンを糖に変えることで生まれます。同時に酵母の働きでアルコール発酵も進むため、本みりんには糖分とアルコール分の両方が共存しています。この二つが揃っているからこそ、加熱したときに照りやつやが出て、煮崩れを防ぐ働きも生まれると考えられています。

本みりんとみりん風調味料の境目——酒税法という基準

スーパーには「みりん風調味料」という商品もありますが、これは本みりんとは別物です。国税庁の資料によれば、みりん風調味料はアルコール分1%未満で、酒税法上の酒類には該当しません。本みりんが酒類として扱われるのは、まさにこのアルコール度数の違いによるものです。ラベルに「本みりん」とあるか「みりん風調味料」とあるかで、酒税法上の位置づけが変わると理解しておくと選びやすくなります。

甘酒——麹の力だけで甘くする、もう一つの発酵

米麹甘酒とは、ご飯や米に米麹を加えて保温し、デンプンを糖化させたものです。農林水産省の資料によれば、その主成分はブドウ糖やオリゴ糖で、アルコール分は1度未満のため酒税法上の酒類には該当しません。

米麹甘酒はデンプンを糖に変える発酵

米麹甘酒の甘さは、酵母によるアルコール発酵を経ず、米麹の酵素がデンプンをブドウ糖にまで分解することで生まれます。みりんのように酒として醸すのではなく、糖化だけを進める発酵という点が最大の特徴です。

酒粕甘酒との違いと、アルコール度数という境目

甘酒にはもう一系統、酒粕を溶かして砂糖などで調味した酒粕甘酒があります。農林水産省の資料によれば、酒粕甘酒は少量のアルコールを含みます。また別の農林水産省の資料では、蒸したもち米を米麹や焼酎と仕込んで約1か月熟成させた醪をすり潰した白酒はアルコール度数が10%前後で、家庭で作ることは禁止されている一方、米麹甘酒は家庭で作ることができるとされています。同じ「甘酒」という言葉でも、米麹だけで作るものと酒粕を使うものとでは、アルコールの有無という一線が引かれています。

はちみつ——ミツバチの体内で完成する「天然の転化糖」

巣房で花蜜の水分を飛ばす働き蜂と、蜜蓋がされた巣房を近くから描いたイラスト ミツバチの体内と巣の中で、花の蜜がはちみつへと変わっていく

はちみつとは、ミツバチが花の蜜を集めて巣に持ち帰り、体内の酵素を働かせて完成させる天然の甘味です。花の蜜に含まれるショ糖の多くが、果糖とブドウ糖に分解された状態で私たちの手元に届きます。

花の蜜のショ糖がすでに分解された状態で届く理由

花の蜜に含まれるショ糖は、ミツバチが持つ酵素の働きによって果糖とブドウ糖に分解されます。この分解された状態の糖を転化糖と呼びます。砂糖のように精製で糖を取り出すのでも、米麹のように穀物のデンプンを糖化するのでもなく、ミツバチという生き物の体内での加工を経て甘味が完成する点が、はちみつを他の三つと分ける最大の特徴です。どの花の蜜を集めたかによって風味や色合いは大きく変わり、はちみつの味を決める蜜源植物の話にもつながっていきます。

公正競争規約が定める水分と糖の基準

全国はちみつ公正取引協議会が定める公正競争規約では、はちみつの組成基準として、水分20%以下(国産はちみつは22%以下)、果糖及びぶどう糖の含有量が合計60g/100g以上、しょ糖は5g/100g以下(蜜源によっては10〜15g/100gまで許容される場合がある)と定められています。水分が少なく糖度が高いという組成は、はちみつの糖度と保存性のしくみにも関わってきます。

何を選べばいいのか——目的別の使い分けの目安

料理の目的によって、選ぶべき甘味は変わります。甘さの強さだけでなく、アルコールの有無や加熱後の質感まで含めて考えると判断しやすくなります。

目的向いている甘味理由
照り・つや・煮崩れ防止みりん糖分とアルコール分が同時に働く
コクや香りを立てたいはちみつ果糖・ブドウ糖主体で風味が強い
アルコールを避けたい米麹甘酒アルコール分1%未満
すっきりした甘さで色をつけたくないグラニュー糖結晶が粗く癖が少ない

照り・つや・煮崩れ防止が目的ならみりん

煮物に照りやつやを出したいとき、あるいは煮崩れを防ぎたいときは、本みりんが向いています。糖分とアルコール分が同時に働くことで、素材の表面に艶が生まれ、加熱による煮崩れを抑える働きが期待できると言われています。

コクや香りを立てたいならはちみつ

ドレッシングや焼き菓子、仕上げのひとかけなど、風味そのものを立たせたい場面では、はちみつが選ばれることが多いです。蜜源によって香りの個性が変わるため、同じ料理でも使うはちみつによって印象が変わります。

アルコールを避けたいなら米麹甘酒

アルコールを含む調味料を避けたい場合は、アルコール分1%未満とされる米麹甘酒が選択肢になります。砂糖の代わりに甘みを加えたいときの選択肢としても使われています。

よくある質問

Q:砂糖の代わりにはちみつを使うときの分量目安は? はちみつは砂糖より甘みが強いと言われることが多く、同じ甘さを出すのに必要な量は砂糖より少なくて済むとされています。ただし、はちみつは砂糖と違って水分を多く含む液体です。砂糖をそのまま同量のはちみつに置き換えると、生地やたれの水分量が増えてしまいます。甘さの強さと水分量の増加は別の話として、それぞれ調整する必要があります。

Q:みりんが手元にないとき、はちみつや甘酒で代用できますか? 甘みの方向性を近づけることはできますが、みりんが持つ照り・つや・煮崩れ防止という働きまでは代用しきれません。これらの働きは、みりんが糖分とアルコール分を同時に持つことで生まれると考えられているためです。甘さだけを補いたい場面と、照りやつやまで求める場面とを分けて考えると失敗しにくくなります。

Q:米麹甘酒はお酒に弱い人が飲んでも大丈夫ですか? 農林水産省の資料によれば、米麹甘酒はアルコール分1度未満で、酒税法上の酒類には該当しないとされています。数値としては非常に低いものですが、体質や体調には個人差があるため、心配な場合は無理に飲む必要はありません。

Q:小さな子どもにはちみつを与えてもよいですか? 1歳未満の乳児には、はちみつを与えないでください。乳児ボツリヌス症のリスクがあるためです。詳しくは1歳未満の赤ちゃんにはちみつを与えてはいけない理由にまとめています。

六角門は、京都で養蜂を軸にした健康ブランドとして準備を進めています。まだ蜜蜂を迎える前の段階で、巣箱もはちみつもこれから整えていくところです。今回のように、はちみつをはじめとする甘味の性質を一次資料から調べ、整理する作業も、その準備のひとつとして続けています。