この記事の要点

  • ミツバチの巣が六角形なのは、同じ面積を最も少ない壁の長さで仕切れるかたちだからです
  • 平面を隙間なく敷き詰められる正多角形は正三角形・正方形・正六角形の三つだけで、その中で最も壁が短いのが六角形です
  • 巣の建材である蜜蝋はミツバチ自身の蝋腺から分泌される代謝コストの高い材料で、六角形はその節約に直結します
  • 円形から六角形へ変わるのか、最初から六角形に作られるのかは、研究者のあいだで議論が続いている未決着のテーマです

蜂の巣の写真を見て、なぜあんなにきれいに六角形が並ぶのか、不思議に思ったことがあるのではないでしょうか。デザインとして選ばれたわけでも、偶然そうなったわけでもありません。もっと切実な理由があります。

木枠の巣板に整然と並ぶ六角形の巣房を朝の光の中で近くから描いたイラスト

先に結論——最も少ない壁で、最も広く仕切れるかたちだから

ミツバチの巣が六角形なのは、限られた材料で最も広い面積を仕切れる、無駄のないかたちだからです。同じ大きさの部屋を並べるとき、壁をどう配置するかで使う材料の量は変わります。六角形はその中で最も効率のよい選択肢にあたります。

六角形は「節約」のかたち

巣房と呼ばれる一つひとつの部屋を六角形にすると、隣り合う部屋どうしが壁を共有できます。三角形や円形で同じ面積を確保しようとすると、より多くの壁の長さ、つまりより多くの材料が必要になります。六角形は面積あたりの壁の長さが最も短くなる並べ方の一つで、これが節約につながります。

美しさが目的ではない

規則正しく並ぶ六角形は見る者に整然とした印象を与えますが、ミツバチが美しさを目指して巣を作っているわけではないと考えられています。結果として幾何学的に整った形が現れているのであって、目的は材料と労力の節約にあるというのが、一般的な理解です。

平面を隙間なく埋められる正多角形は、三つしかない

平面を隙間なく敷き詰められる正多角形は、正三角形・正方形・正六角形の三種類しかありません。この前提を押さえると、なぜ六角形が選ばれるのかが見えてきます。

隙間があると何が困るのか

正五角形や正八角形では、いくら並べても隙間ができてしまいます。隙間は使われない空間であり、巣という限られた空間の中では単純な無駄になります。ミツバチが利用できる形は、必然的にこの三つの正多角形に絞られます。

同じ面積を囲むとき、壁がいちばん短いのはどれか

正三角形・正方形・正六角形で同じ面積の部屋を作り、壁の長さを比べると、正六角形が最も短い壁で済みます。壁の材料が蜜蝋であることを考えると、この差はそのまま建材の節約量の差になります。

三つの壁が等しい角度で交わるという特徴

六角形の巣房は、三本の壁がひとつの頂点で交わるとき、それぞれ等しい角度で接します。この交わり方は力学的に安定しやすく、薄い壁でも歪みにくい構造につながっていると考えられています。

建材は蜜蝋——自分の体から出す、高価な材料

巣の壁を作る蜜蝋(ビーズワックス)は、ミツバチが自分の体から分泌する材料です。外部から調達できるものではないため、少ない量で広い巣を作れることには大きな意味があります。

蜜蝋はどこから出てくるのか

蜜蝋は、働き蜂の腹部にある蝋腺という器官から分泌されます。蝋腺から出た蜜蝋は薄い鱗片状になり、それを蜂が自分の脚で運んで巣房の壁に使っていきます。体内で作り出す材料である以上、消費するエネルギーも小さくありません。

巣づくりは日齢で回ってくる仕事

巣を作る作業は、すべての働き蜂が一斉に担うわけではありません。働き蜂の一生は約一か月——日齢で変わる仕事の分担というしくみの中で、蝋腺の働きが活発になる時期の蜂が、造巣の役割を担うとされています。

壁を薄くしても崩れない理屈

六角形の壁は三方向から支えられる構造のため、一枚あたりの壁を薄くしても崩れにくいという特徴があります。壁が薄くて済むということは、それだけ蜜蝋の使用量を抑えられるということでもあります。

本当に「六角形に設計」しているのか——実は決着していない

ミツバチが最初から六角形を意図して作っているのかどうかは、研究者のあいだで議論が続いているテーマです。大きく分けて二つの考え方があります。

円から六角形へ、という考え方

一つは、ミツバチはまず円形に近い部屋を作り、隣り合う部屋どうしが押し合う中で、壁が自然に六角形へ変形していくという説です。蜜蝋がわずかに柔らかい状態のとき、表面張力に似た力で角が均されていくという考え方が示されています。

最初から六角形だ、という考え方

もう一つは、ミツバチが最初の段階から六角形に近いかたちを作っているという説です。観察の精度が上がるにつれて、この立場を支持する報告も出てきており、円形起源説だけでは説明しきれない面があるとも言われています。

どちらにしても結果が同じになる理由

どちらの説が正しいとしても、最終的にできあがる形が六角形に収束するという結果自体は変わりません。六角門としては、こうした議論があることを紹介するにとどめ、実際の巣板をいずれ自分の目で確かめたいと考えています。

巣は平面ではなく立体——両面の噛み合いと、わずかな傾き

蜂の巣は一枚の平面ではなく、表と裏に部屋を持つ立体の巣板として作られています。写真だけを見ていると気づきにくい構造です。

表と裏の房は背中合わせにずれている

巣板の表側と裏側の巣房は、底の部分を共有しながら、少しずれて背中合わせに配置されています。このずれによって、限られた厚みの巣板の中に、より多くの部屋を詰め込むことができます。

房がわずかに上を向いている理由

巣房は完全な水平ではなく、入り口よりも奥がわずかに高くなるように傾けて作られていると言われています。中に蓄える蜜がこぼれ落ちにくくなるためと考えられています。

巣板が垂直に並ぶこと

一枚一枚の巣板は、巣の中で概ね垂直に、一定の間隔を保ちながら平行に並んでいます。この並び方によって、限られた巣の空間を効率よく使うことができます。

六角形の房は、すべて同じ大きさではない

六角形の巣房は、どれも同じ大きさというわけではありません。役割によって大きさが変わります。

働き蜂の房と雄蜂房

働き蜂を育てる巣房に対して、雄蜂を育てる雄蜂房は一回り大きく作られています。育つ個体の体格に合わせて、房の大きさそのものが調整されていると考えられています。

王台という例外的なかたち

女王蜂を育てる王台は、他の巣房とは異なる特別な形をしています。六角形の房が水平方向に並ぶのに対し、王台は下向きに垂れ下がるような独特の形状を取ります。分蜂とは——蜜蜂の群れが半分に割れて、新しい巣へ出ていく日を控えた時期に、王台が作られることが知られています。

ニホンミツバチとセイヨウミツバチの違い

巣房の基本構造は共通していますが、ニホンミツバチとセイヨウミツバチは何が違うのかという点では、巣房のわずかな大きさの違いや巣の作り方の傾向にも差があるとされています。

ハニカム構造が、人の手に渡るまで

六角形が並ぶこの構造は、ハニカム構造と呼ばれ、蜂の巣の外でも広く応用されています。

軽くて強い板として使われる

ハニカム構造を芯材として二枚の板で挟んだものは、ハニカムサンドイッチと呼ばれる構造材として、航空機の内装材や建材などに使われています。内部の大部分が空洞であっても、三方向に交わる壁が力を分散させるため、面としての強さを保ちやすいという特徴があります。同じ重さの材料で比べたとき、無駄なく力を支えられる構造の一例として紹介されることがあります。

ダーウィンやケプラーが書き残したこと

蜂の巣の幾何学的な整いは、古くから多くの人を惹きつけてきました。天文学者のヨハネス・ケプラーは、平面を隙間なく敷き詰める形について考察を残しており、後にこの問題はハニカム予想と呼ばれる数学の命題として整理されました。博物学者のチャールズ・ダーウィンも、著作の中で蜂の巣作りの精巧さについて触れています。

六角形をそのまま食べる——巣蜜という食べ方

六角形の巣房そのものを、蜜が詰まったまま食べる方法があります。

巣蜜(コムハニー)とは

巣蜜(コムハニー)とは、巣房に蜜がたまった状態のまま、蜜蓋ごと切り出して食べるはちみつのことです。ろ過や加熱をしていない状態で流通することが多く、六角形の巣房の断面をそのまま目にすることができます。ただし、壁の材料である蜜蝋自体は人の体内でほとんど消化されない成分とされ、噛んだ後は吐き出すのが一般的な食べ方です。

1歳未満の乳児には与えないこと

はちみつは、1歳未満の乳児には与えてはいけない食品です。加熱しても防げないため、巣蜜であっても例外ではありません。詳しい理由は、1歳未満の赤ちゃんにはちみつを与えてはいけない理由で説明しています。また、はちみつはなぜ腐らないのかという、はちみつ特有の性質もあわせて知っておくと理解が深まります。

よくある質問

Q:ミツバチの巣はなぜ四角や三角ではなく六角形なのですか 平面を隙間なく敷き詰められる正多角形は、正三角形・正方形・正六角形の三つしかありません。この三つの中で、同じ面積を囲むために必要な壁の長さが最も短いのが正六角形です。壁の材料が蜜蝋という貴重な建材であることを踏まえると、六角形が選ばれる理由が見えてきます。

Q:ミツバチは六角形を計算しているのですか 設計図を描いて計算しているというよりは、体の使い方や蜜蝋という材料の性質から、結果的に六角形へ収束していくと考えられています。円形に近い形から変形していくという説と、最初から六角形に近い形に作るという説があり、どちらが正しいかは研究者のあいだで議論が続いています。

Q:ハニカム構造はなぜ軽くて強いのですか 六角形の壁が三方向から交わって力を分散させるため、内部の大部分が空洞であっても、面としての強さを保ちやすい構造になっています。同じ量の材料で比べたとき、無駄なく力を支えられる並べ方の一つとして、航空機の内装材などにも応用されています。

Q:巣ごとはちみつを食べても大丈夫ですか 巣蜜として、巣房ごと食べる方法があります。ただし壁の材料である蜜蝋は人の体内でほとんど消化されない成分とされ、味わった後は吐き出すのが一般的です。また、1歳未満の乳児にはちみつを与えることは、巣蜜であっても加熱調理をしても避けなければなりません。

六角門は、京都で蜜蜂を迎える準備を進めているブランドです。まだ巣箱も蜂もいない段階ですが、六角形という一つの形の裏側にある理屈を調べる中で、いずれ自分たちの目で巣板の傾きや壁の交わり方を確かめたいと考えています。準備の過程で分かったことは、これからもこの読みものの中で少しずつ紹介していく予定です。